設計事務所の「やりがい搾取」について
寿司屋の修行0日で予約の取れない寿司屋を作った板前さんの話しを聞きました。
私は現在48歳なので設計事務所の世界に飛び込んだのは、およそ25年ほど前という事に成りますが、大学を卒業した年に海外に渡り、設計事務所3カ所で今でいうオープンデスクを経験した後日本に帰国。国立大学名誉教授であった巨匠の元で修業をしました。
その後も日本最大のデベロッパーで実務を経験した後、また海外の大学へ留学、帰国後大学で一瞬非常勤を経験したり、執筆や講演をさせて頂いたり、建築のイベントの立ち上げたりしながら、現在の事務所を引き継ぎ設計事務所を運営しています。
高校卒業した際に建築の設計を仕事にすると決めてから、まだインターネットが普及する前だったこともありどうやって職に付けばよいか、どうやって食べていけるのかとただガムシャラに自分で足を運び経験しながら模索していましたが。
今考えると大学時代の設計のバイトは時給360円。就職してからも月のサービス残業は200時間を切ることはなく、交通費無しの手取り13万円という環境下に居たのでいわゆる「やりがい搾取」と言われても過言では無い状況でした。
自分が設計事務所の代表に成ってからというもの。
この様な経験を踏まえて設計でちゃんと食べていける。仕事をしながら人生も大切にして行ける設計事務所を創って行けないかという事で奔走をしています。
建築設計の仕事でガッポリ儲けるというのは現実的では無いので、目標としては「好きな」仕事を「ストレスが少ない 」 労働環境で行い「年収は平均以上」程度の事を目標としています。
仕事内容も楽しい仕事だけというのは難しいですが、マンション、住宅、スタジアム、公共施設、ホテル、オフィス、店舗、発電所、ランドスケープデザインと様々な設計の仕事が舞い込むので飽きないのが良いと思います。
下請けの仕事もしますが、誠実な設計工期や設計費用が担保されない仕事は断る勇気も必要です。誠意のない図面を作り現場が混乱し、結果、誰も喜ばない状況になると分かっているからです。
自分の様にやりがい搾取と言われるような環境に身を置いて、ガムシャラに実力をつける事は無駄とは思いませんが、その環境下を楽しめる精神力とそこから抜け出す行動力というのは非常にコスパが悪いので今の時代あまりお勧めしません。
それなりの向上心があればきっとそこまで追い込まなくてもスキルを習得できる時代ですし、昔とは違い60歳定年というリミットが無いので生涯をかけてゆっくり成長してゆける建築設計の特徴を踏まえた人生を送ることができると思います。
これから設計の仕事を目指す人へ。
設計の仕事は求められることが多く大変な部分は否めませんが。仕事としてきっと悪くないと思います。自分が描いたものが多くの人の手を借りながら実現した時の満足感はモノづくりの醍醐味です。
また自己実現、自身の成長、知的好奇心を満たしてくれて人生を楽しいものにしていく事ができると思います。
「設計は諦めてハウスメーカーに」「設計は諦めて建設会社に」という様な人をいっぱい見てきましたが、まず設計事務所で自分を試してみるのも良いと思います。
建築業界の中ではきっと一番つぶしが効くのが設計事務所での経験です。
再就職が必要に成った場合、設計事務所出身者は、建設会社でもハウスメーカーでも重宝がられます。
それは法的な知識があり、ゼロから企画を興し、図面が描け、構造が理解できて、現場を知り、接客ができて、コスト管理ができる。なによりも一級建築士の資格を取得ができれば無敵です。
もし建築学科で進路を悩んでいるのであれば「とりあえず設計事務所から始めてみる」というのはいかがでしょうか。